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鑑定評価って何を見て値段付けるの?
地域要因三部作のラストは<工業地域>です。
工業地域は、高速道路インターチェンジ(IC)への接近性と
大きなトラックでも通れる幅員が重要な要素です。
工業地域の地域要因
不動産鑑定評価基準では、
先日挙げた住宅地の要因のほか、
工業地域特有の地域要因として7項目が例示されています。
この中から、評価実務に沿って
工業地域を見るチェックポイントをお話します。
■街路条件
現在の日本は陸運が中心です。
そのため、トラックが出入りしたり、
高速道路ICまでのルートが整備されていたり、
幅員や街路整備の状態が非常に重要です。
大きな工場であるほど、10tトラックなど
大きなトラックの出入りの便が重要になってきます。
そのため、6mが目安の住宅地域とは違い、
10m以上の幅員が喜ばれたりするケースも多いです。
また、広すぎると中央分離帯が出てくる場合もあり、
敷地への出入りの便がどうなっているか
現地での確認が大切です。
■交通接近条件
工場地域は、高速道路ICへの接近性が重要です。
実際の売買実例でも、IC近くの工業地域は人気が高く、
価格もしっかり付いていることが多いです。
一方、住宅地域や商業地域と違って、
鉄道駅との接近性はそれほど大きく考慮されません。
もちろん従業員の通勤の便もありますので、
あまり山の中だと人が集まらなくて困ることもあります。
AIや機械化が進むと、これも変わってくるかもしれません。
■環境条件
当初から工業用地として整備された工業団地であれば
比較的問題は少ないです。
一方、昔から工場だった自然発生的な工業地域は
周辺の住宅地域や商業地域との関係で、
騒音や煙、トラック往来などトラブルになるケースも。
また、工業用水が整備されていない地域だと、
進出できる業種が限定されることもあります。
■行政的条件
商業地域と違って、容積率はあまり問題になりません。
用途地域で工業専用地域に指定されていると、
将来的に住宅用途への転換ができないことに注意です。
土壌汚染に要注意!
土壌汚染の可能性が最も高いのは工業地域です。
土壌汚染対策法、水質汚濁防止法、下水道法の調査を行い、
現地で地下タンクの有無や有害物質の使用履歴等を確認し、
しっかりリスクを把握することが大切です。
場合によっては、指定調査機関と連携し、
土壌汚染リスクを適切に反映する必要があります。
土地価格が低い地域だと、
土地価格より浄化費用の方が高く見積もられたり、
様々な問題が出てきます。
鑑定評価の中では、条件により考慮外とすることもあり、
この場合は契約書で土壌汚染負担に関する条項を作るなど
適切にリスク管理をする必要があります。
工業地域にもさらに種類がある
工業地域といっても、さらに細分化できます。
大工場地域
中小工場地域 です。
大工場は、鑑定の中では3万㎡〜5万㎡以上、
固定資産評価では5万㎡以上の敷地規模が該当します。
少しの単価の違いで総額が大きく変わりますので、
しっかり説明力のある鑑定評価を行うことが大切です。
鑑定評価って何を見て値段付けるの?
「地域要因<住宅地域>」に続いて、
商業地域を取り上げたいと思います。
商業地域は、繁華性と収益性。
この2つが重要な要素です。
商業地域の地域要因
不動産鑑定評価基準では、
先に挙げた住宅地域の要因のほか、
商業地域特有の要因として10項目が例示されています。
この中から、評価実務に沿って
商業地域を見るチェックポイントをお話します。
■街路条件
商業地域でも幅員はとても重要です。
人と車の流れや量に直結します。
郊外の幹線道路沿いの商業地域では、
幅員だけではなく、主要国道や都道府県道など
「系統連続性」も大きなポイントになります。
単に幅員の広い狭いだけでは、
広い幅員の道路なんていっぱいありますし、
誰も通らない道路では商売しにくいですよね。
このような幹線沿いの商業地域では、
駐車場の広さや入りやすさ等も
収益性に大きな差が出てきます。
さらに、道路幅員が狭いと、
行政的条件で挙げる容積率にも影響が出てきます。
幅員が狭いと、本来の容積率が使えなくなります。
■交通接近条件
駅前や駅近くの商業地域であれば、
駅からの距離は大きな差になってきますし、
どの駅の近くかはさらに大きな差が出てきます。
都心部や特急停車駅など繁華性が高い駅のほうが
顧客の通行量が多く、高い収益性が見込めます。
また、駅だけに近ければよいわけでもありません。
商業核と言われる大型商業施設との位置関係も大切です。
■環境条件
住宅地域では生活利便性と居住環境が重要でしたが、
商業地域では繁華性と収益性が重要になります。
シャッターばかりの寂れた商店街よりも、
活気があって店舗がたくさん集まった商店街の方が
人もたくさん集まってきますし、収益性も上がります。
商業集積度が高く、背後人口も多い商業地域は
繁華性や収益性が高くなるので、価格も高くなります。
地方だと、繁華性や収益性が低いため、
徐々に商業地域から住宅地域に
なってきているところもあります。
■行政的条件
商業地域では、容積率が非常に重要です。
容積率が大きいほど、大きく高い建物が建てられます。
たとえば、同じ面積の土地でも、
5階建のビルしか建てられないところと
10階建てのビルが建てられるところでは、
全く違ってきますよね。
住宅地域や工業地域より、格差は大きくなります。
商業地域にもさらに種類がある
商業地域といっても、さらに細分化できます。
高度商業地域
準高度商業地域
普通商業地域
近隣商業地域
郊外路線商業地域 です。
(準)高度は、特に発展した都会の駅前商業地域。
普通は、地方の駅前商業地域など。
近隣は、日用品を買う程度のちょっとした商業地域。
郊外路線は、国道などロードサイドの商業地域です。
細分化された地域によって、
上記項目の影響の程度はそれぞれ変わってきます。
鑑定評価って何を見て値段付けるの?
第2回目は「地域要因」です。
前回の「一般的要因」で大きな流れをつかんだら、
次にするのが地域の分析です。
評価の対象となる不動産がどんな地域にあって、
どんなことが重視されて売買されているのか。
住宅地域、商業地域、工業地域、農地山林で
異なってきますので、順に見ていきましょう。
住宅地域の地域要因
不動産鑑定評価基準では、
住宅地域の地域要因として14項目が例示されています。
その中から抜粋してご紹介いたします。
■日照、温度、湿度、風向等の気象の状態
住宅地域は日照が大切ですよね。
不動産広告にも「南向き」「日当たり良好」など
南→東→西→北の順に好まれる傾向があります。
商業地域や工業地域は、日照や方位は気にしないので、
住宅地域ならではの要因です。
鑑定士が道に迷うことは職業柄ほとんどないのですが、
たまにわからなくなった場合は、
周囲のマンションのベランダをチェックしたりします。
できるだけ南向きにベランダを作る傾向がありますので、
いくつか見ていけば南の方角がだいたいわかります。
太陽が出ていない時、時間がわからない時でも使える小技です。
■街路の幅員、構造等の状態
地域によって求められる道路幅員は異なりますが、
地方や郊外など車を使うことが多い住宅地域では
6m以上の幅員が好まれます。
狭幅員だと車の運転が難しかったり、離合できなかったり。
4m未満だったら、セットバックの可能性も出てきます。
交差点の隅切りも運転しやすさに大きな差が出ますよね。
現地調査では、何度も無謀な挑戦をして
車にキズを作ってしまっているので(反省)、
現地調査前に周辺の幅員を調べるのは必須です。
■都心との距離及び交通施設の状態
どれだけ居住環境が良くても、
通勤通学などの便が悪いと大変ですよね。
しかし、コロナで在宅勤務が進むと、
このあたりの価値判断は変わってきそうです。
■商業施設の配置の状態
日々の生活のための買い物も便利な方が良いですよね。
単なるコンビニというよりは、
日常生活を送るために必要なスーパー等が該当します。
■上下水道、ガス等の供給・処理施設の状態
都会では当たり前になっていますが、
上下水道ガスの整備が進んでいない地域もあります。
上水道はほぼどこでも供給されているのですが、
場所によっては簡易水道や井戸水など様々です。
下水道も、公共下水道や集落排水、集団浄化や個別浄化など
様々なパターンがあります。
さらに、前面道路に敷設されていないと
宅内への引込に多額の費用が掛かったり、
そもそも敷設されている管の容量が小さくて、
引き込めなかったりと見えない部分での差も大きいです。
■洪水、地すべり等の災害の発生の危険性
■騒音、大気の汚染、土壌汚染等の公害の発生の程度
最近は土砂災害や河川氾濫が増えています。
土砂災害警戒区域(イエローゾーン)や
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)のほか
ハザードマップで浸水可能性についてチェックしたり、
より一層重視されていく項目だと思います。
また、元々が池や沼だったところは地盤が緩く、
元々山を切り拓いたところは盛土部分での土砂災害の可能性、
元々工場だったところは土壌汚染の可能性等が出てきます。
昔がどうだったかは、ネットで過去の航空写真を見たり、
図書館で古い住宅地図を見ることで調べることができます。
住宅地域にもさらに種類がある
住宅地域といっても、さらに細分化できます。
優良住宅地域
標準住宅地域
混在住宅地域
農家集落地域
別荘地域 等です。
それぞれ細分化された地域によって、
上記項目の影響の程度はそれぞれ変わってきます。
鑑定評価って何を見て値段付けるの?
どのようなことがあったら
価格が上がったり下がったりするの?
このようなご質問もよく頂きます。
たとえば、新型コロナウイルスは景気に影響を与え、
不動産の価格(市場動向)にも影響を与えているのですが、
どのような理由で影響があるのでしょうか。
需要と供給の原則
不動産の価格はわかりにくくて難しいと思われますが、
不動産も需要と供給で価格が決まるのは同じです。
需要が高い(人気がある)不動産は高くなるし、
需要が低い(人気がない)不動産は安くなります。
とってもシンプルで簡単なのです。
このような需要と供給に全般的な影響を与えるのが、
下記の「一般的要因」です。
価格形成要因
不動産鑑定評価基準では、
「不動産の価格を形成する要因」として
以下の3つを挙げています。
「一般的要因」:全般的な景気動向、人口動態、政治経済の情勢など
「地域要因」 :駅距離などの利便性、人気の有無、地域の居住環境など
「個別的要因」:形状や面積、角地など、その土地の個別的な要因
不動産の価格が上がったり下がったりするのは、
これらの要因が変動するためです。
一般的要因は国や都市レベル、地域要因はご近所レベル、
個別的要因は対象地そのもの、というイメージでしょうか。
一般的要因
今回はその中で「一般的要因」を取り上げてみます。
一般的要因は、自然的要因、社会的要因、経済的要因、
行政的要因の4つに分かれます。
■自然的要因
地理的位置関係や地勢、気象の状態など。
都心部から離れるほど地価は下がりますし、
山が多い平野が多い、暑い寒いも価格に影響します。
災害の危険なく、温暖なところに住みたいですよね。
■社会的要因
人口の状態や生活様式の変化など。
人口減少=不動産需要減少につながるため、
将来的に不動産価格は下がっていく方向になります。
また、生活様式等の状態では、
コロナで在宅勤務が浸透するなど変化が大きく、
不動産を見る目が変わっていく過渡期にあると思います。
通勤・通学の利便性を考えなくてもよくなったり、
都心部のオフィス需要が減少したり、
これまでとは違った価値観で
不動産が選ばれていくことになります。
■経済的要因
物価、税負担、会計制度、技術革新、交通体系など。
物価が上がれば不動産価格も上がる可能性が高いですし、
相続税や所得・法人税が変われば、不動産の動きも変わります。
相続税増税で賃貸マンションがいっぱいできましたよね。
ICTが進めば、地理的な距離を飛び越えられるため、
都心への一極集中が減るかもしれません。
■行政的要因
土地利用規制、建物規制、不動産の税制や施策など。
規制が緩和されれば、京都でも高い建物が建てられますし、
不動産の税制や中古住宅推進などの国の施策も
不動産の価格に大きな影響が出てきます。
バブル崩壊の原因となった総量規制なども
不動産の価格に大きすぎる影響を与えましたよね。
このように一般的要因は不動産の価格に大きな影響を与えます。
地域や個別的な不動産の状況を見る前に、
まずは大きな流れをしっかり押さえておくことが大切です。
士業の先生の不動産評価に関するご相談、お待ちしています

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